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・本文書は、「原子力eye」2008年3月号(Vol.54 No.3)のシリーズ連載「知所先後」の第12回「産学連携の功罪−大型プロジェクトでは2者間競争導入を」に掲載されたものである。 ・同誌編集長のお話によると、シリーズ連載の名称である知所先後(ちしょせんこう)とは、中国の古典「礼記」の中の一篇である「大学」に記述されている「知所先後、則近道矣」から採ってきたものとのことである。意味は「先にすべきことと後にすべきことを知ることが(知所先後)、近道なのである。(則近道矣)」と言う。 ・同誌の原文の記事について一読されることをお勧めします。 【問合先】 (株)日刊工業出版プロダクション 原子力eye 編集部 〒103-8548 東京都中央区日本橋小網町14−1 Tel : 03−5641−8355/Fax : 03−5641−8360 URL http://pub.nikkan.co.jp/mgz/eye/index.html |
印牧直文
システム工学では制御機能が重要な要素の一つである。この視点から概観すると、市場システムは、「産」と「学」の2つの処理プロセスに対して、
ルール(法律や規制)や助成金を使って市場を健全化する「官」の制御プロセスが加わったシステム構成であると類推される。この種のシステムが
産学連携の基本であり、自由競争市場では自然な形態と言える。他方、産学官連携は「官」を処理プロセスの一つに加えることであり、3つの処理
プロセスが揃わないと効果が出ないことを意味する。ここでは産学連携に関するメリットとデメリットについて述べ、提言も行う。
従来、産学連携の大きな課題は、市場を全く意識しない「学」の研究者と市場の動きを死活問題として意識する「産」の製品開発者との間に生じる
「研究成果と市場ニーズとの時間的ギャップ」であった。製品開発者は、市場への製品の導入タイミングに力点を置くため、この時間的ギャップを
埋めるための短縮化に専念しようとする。このために分業スケジュール計画を立て、研究者に対して立案された追加応用研究の遂行を死守してもらい
たいと詰め寄るのである。研究者はそもそも人より先んじて研究成果を論文化して公表したいという活動環境にいるため、追加応用研究の成果を
スケジュールに合わせてタイミングよく出すという環境に慣れていなかったのである。
この環境を大きく変化させたのが、「産」の製品開発者が「学」の大学に転じる動きが出て、それが強まっていることである。企業人の計画・遂行の
経験が大学内に吹き込まれたのである。更に、政府等の公的機関からの助成金に対しては、その計画・遂行が義務付けられ、この経験が「学」の研究者
に影響したのである。
産学連携は、「学」の研究者に対して、「Time is Money」という時間と金との関係に関する意識を向上させ、物づくりの計画性を向上させた点が
大きなメリットとなっている。
産学連携の各種計画において利益優先主義が強まり、これがデメリットとして顕著化し始めている。利益優先下では、利益=収入―コスト(支出)の
関係式を最優先し、収入増かコスト減の遂行が重要視される。この利益優先の行き着くところは、組織内(企業/大学)の人材育成と品質検査の機構が
コスト増の理由から弱体化することである。前者の人材育成に関しては、何ヵ月にも及ぶ研修の時間と費用、そして研修後、能力給制度に従っての
レベルアップによる給料増額のコスト増が考えられ、人材育成を行わず外部から人材調達(ヘッドハンティング等)を行った方がロスタイムと給料増額
を低減できるのである。後者の品質検査に関しては、企業内の品質検査を強めると、欠陥品数の増加(返品数増)につながり、このための収入減少と
倉庫代のコスト増が引き起こされる。検査機構は生産部門から嫌われる存在となり、このことは組織の弱体化につながるのである。この種の弱体化に
関し、アウトソーシングを推進している企業では特に大きなリスクを抱えることになる。
産学連携の計画を遂行する中で、利益優先主義を強めると、若手の人材育成や品質検査の推進は徐々に行われなくなっていく傾向があることに充分
留意する必要がある。
利益優先に伴う成果主義でもデメリットが出始めている。特に予算規模が大きい大型プロジェクトの産学連携においては疑問視される成果が出される
ことがある。場合によっては、研究者の倫理観を破壊するような論文データの改ざんや捏造という行為(特許出願含む)が発生することもある。追試実験
を行えばその行為を検証できるが、大型プロジェクトでは追試実験を行おうとする他研究機関が少ない。それは、同じ大型予算をもらったら別の研究
テーマを設定して別の成果を出した方が論文化し易いという研究者気質が後押ししているからである。同一実験条件による再現性の検証は物づくりの
基本であり工学の基本であるが、この地道な検証をしない大型プロジェクトが存在し、これを賞賛する事態も発生している。バイオ分野(韓国)や通信
分野(米国)では既に発生しており、再現しないことを「神の手」という表現で賞賛することさえあった。2002年に発覚した米ベル研究所の科学技術論
文の捏造事件(シェーン事件)は有名である。シェーン氏はわずか4年の短期間に研究業績を90本以上の論文にまとめて発表し、特に、2001年には平均
して8日に1本の割合で論文を発表し驚嘆されたが、実験の再現性を検証できず、同氏の論文を疑問視する研究者が少なかったという事件である。この時
彼は「神の手」と表されている。
「成果が全て」という成果優先が強まると、事後の議論はなくなり、その後の本質論を議論する機会が失われる。また、利益優先によって、議論の
時間的視野は、市場サイクルに影響されて3年以内となり、議論は本質論よりもその場しのぎの計画・遂行になり易い。
本質論を議論する効果・効用は、産学連携における長期レンジの物差し(仮説)をつくれることであり、これに沿って次の具体的な計画を立てられる
利点である。最近、この種の本質論を述べるとウザイと言われ嫌われるが、3年〜10年程度の先行きを類推し大局的な見地で推進する産学連携は日本に
とって重要である。
本質論を議論すると「独断と偏見」に陥り易い。この解決方法が競争原理の導入である。例えば、大型プロジェクトを遂行する際には、2つの異なる
研究機関に対して同一仕様で委託する並列委託方法を採用し、二者の競争による相互チェックを実現するのである。この競争状態は互いの研究機関に
おいて若手の人材育成を促進するとともに、論文データの改ざん・捏造を相互チェックできるという二次的効果も生まれる。
過去に議論された「東大と京大の競争」、「ケンブリッジ大学内のカレッジ間の競争」、「円覚寺内にある塔頭(たっちゅう)(〜院、〜庵)間の
競争」等々を参考にする時期が再来したと考えている。本質論を議論するためには切磋琢磨する「知の競争」が必要であるからである。
産学連携の大型プロジェクでは、2つの研究機関に発注し、二者間で競争させる「知の競争」プロセスについての検討と創設を期待している。
(出典)http://www.mekikies.com/japanese/news/sangakurenkei_s.pdf