・本文書は、「原子力eye」2007年9月号(Vol.53 No.9)のシリーズ連載「知所先後」の第6回「技術目利きの条件」に掲載されたものである。

・同誌編集長のお話によると、シリーズ連載の名称である知所先後(ちしょせんこう)とは、中国の古典「礼記」の中の一篇である「大学」に記述されている「知所先後、則近道矣」から採ってきたものとのことである。意味は「先にすべきことと後にすべきことを知ることが(知所先後)、近道なのである。(則近道矣)」と言う。

・同誌の原文の記事について一読されることをお勧めします。
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技術目利きの条件


印牧直文


1.はじめに

「ビジネスが絡む“技術目利き”を本当にできるのですか」−真面目に考えれば考えるほど納得がいく質問である。 それは、ビジネスでは製品化に際して、対象の注目技術だけでなくローテク関連技術との組み合せの検討が必要となり、知的財産の 権利関係を含め検討範囲が拡大し、評価が複雑になるからである。更に、製品化のスピードが速い分野では市場の情報変化の監視が 必要となり、そのための情報収集量が膨大化し、一人で短期間に咀嚼できないという背景があるからである。


2.技術目利きは真贋鑑定以上に価値判定に力

“目利き”とは何か。絵画や骨董品の世界で使われている目利きは真贋鑑定を意味する。それは真贋さえ判定すれば、 品物の価値は自動的に流通価格相場表に基づいて決まるからである。実は目利きのプロセスは、鑑定プロセス(真贋判定)と評価プロ セス(価値判定)とから構成されている。絵画や骨董品の世界は前者のプロセスに力点を置いたものであり、オリジナルの1品を対象に する。他方、後者に力点を置いたものが「技術関連(特許等)」の世界であり、技術そのものの1品(特許)の売買もあるが大半は技術 のコピー品(複製品)の売買が重要である。その複製品がどれだけ売れるかを価値判定するのである。技術目利き(人)はこの価値判定 に秀でた人である。例として、オリジナルの絵画を買う際に、その絵画の複製品(ポスター・カレンダー・レプリカ等の複写品)がどれ だけ売れるかを価値判定することが技術目利きの仕事に相当する。


3.前提条件と時間経過の2視点を備えた評価能力

技術目利きの評価プロセスでは技術の複製品の価値を把握するための市場性評価の能力が要求される。具体的な能力とし ては以下の2つの視点から市場規模(適用分野)を固められる力である。第1に、前提条件の視点から、市場規模の算出に際してはポイント (点)ではなくレンジ(範囲)で考えられる力である。それはワーストケース(最小値)とベストケース(最大値)の前提条件から決まる ものである。第2に、時間経過の視点から販売開始から成否判断までの期間(目標シェア獲得期間)に応じて3つのカテゴリで考えられる力 である。目標シェア獲得期間を1.5年先にするか(第1カテゴリ)、3〜5年先にするか(第2カテゴリ)、5〜10年先にするか(第3カテゴリ) の設定の仕方によって市場規模の数値が左右するからである。長期の第3カテゴリでは「あったらいいな」の発想から市場規模を算出し、 短期の5年未満の期間設定(第1と第2のカテゴリ)では市場で「何が困っているのか」という発想からそのソリューションを想定して算出す ることになる。第1と第2のカテゴリとの違いは、特許非公開期間(1.5年)以内に商売の見切りをつけるか否かで定まる。第1カテゴリでは 特許公開後(1.5年以降)のトラブルを想定して予めその弁護士料や和解金を価格に上乗せした形で市場規模を算出することになる。


4.技術目利きの資質

ビジネスに絡む技術評価は市場に連動して決まる時価相場に近い。相場変動の要因としては、成果発表(類似・関連技術及 び代替技術)、特許の公開(日本特許、国際特許)、新製品の発表、投資発表(研究開発)、技術の買収発表(特許または企業M&A)、移籍 発表(技術キーパーソン)が挙げられる。この変動の周期は資金の流れのサイクルと同じ3ヵ月(Quarter)となっている。それはプレスリ リースや新聞等による情報発生が開発・製品化の資金の流れと連動しているからである。このような市場の情報変化に敏感に応じられる資質 が技術目利きに求められる。国際的なビジネスでは、@カンの良さ、A変り身の早さ・ 柔軟性、B図太さ、C積極性、D粘り強さ、E何事も 良い方向に解釈する明るさ、Fチャレンジ精神の7つの資質が求められると言われている。筆者の経験からすると、日本の技術目利には、(1) 条件付の肯定的な発言をする力、(2)「主語(誰が)+動詞(doする)」で判断する力、(3)多面的視点を持てる素直さの力、(4)大局的 見地(意識)を持つ力の4つの資質が強く求められている。特に昨今(4)の資質に関して日本人の弱さが顕著に現れ、これが冒頭の質問で納 得した理由でもある。複雑な評価や膨大な情報収集量の分析では長期ビジョンや哲学や倫理に関する理性・感性が求められるからである。


5.計画性から大局観の習得

ある日本人の識者が第2次世界大戦の終戦直後に日本人は「無計画な頑張り」をもうしない方がよい、と述べていたらしい。 終戦後62年を経た今の日本も「無計画な頑張り」が社会や技術の世界で勢いづいている。計画よりも収益向上(コスト削減)への情熱である。 この種の「無計画な頑張り」への情熱は日本人の遺伝子的特性の一つであるようにも感じてしまうのである。 計画的に物事を考えることは 大局的な見地を伸ばす訓練になる。それは、想定した計画(仮説)が「思考の物差し」になって、時間経過とともにこの物差しと現実化した 物事(事実)との差からさらにその先の計画の新設・変更を継続的に思考できるからである。そこに計画性がリアル化し、大局的な見地が浮 き出されてくる。その思考範囲はビジネス的思考(市場規模算出)が困難な10年以上先が適している。10年以上先の具体的な技術テーマ設定 は可能である。それは海外資源に大半頼りきっている日本国が何らかの原因ですべての国と国交断絶したと仮想すると日本国が推進すべき技 術テーマが自ずと浮かんでくるからである。私見であるが、「水」、「光」、「エネルギー」が技術の基盤キーワードであると考えている。


(出典)http://www.mekikies.com/japanese/news/tech-mekiki_s.pdf


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