・本文書は、「原子力eye」2007年6月号(Vol.53 No.6)のシリーズ連載「知所先後」の第3回「英国のしたたかさ」に掲載されたものである。

・同誌編集長のお話によると、シリーズ連載の名称である知所先後(ちしょせんこう)とは、中国の古典「礼記」の中の一篇である「大学」に記述されている「知所先後、則近道矣」から採ってきたものとのことである。意味は「先にすべきことと後にすべきことを知ることが(知所先後)、近道なのである。(則近道矣)」と言う。

・同誌の原文の記事について一読されることをお勧めします。
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英国のしたたかさ


印牧直文


1.その多民族性

技術革新の歴史や技術の進化について勉強し始めると、英国との地理環境の類似性(図1参照)が気になり始める。 英国は日本の国土面積よりもやや小さいが島国であり、産業革命の英国と技術立国の日本と技術史の面からも類似している。

英国(イギリス)と国名呼称するが、実は正確でない表現である。かつて、イングランド地域を表すオランダ語のエンゲルス (ポルトガル語のイングレス)が訛り、読みが「イギリス」へと変化し、当て字が「英吉利」になり、英国という単語が生まれたのである。 従って、英国の表記はイングランド地域(England)を指していることから、一時期、日本の外務省は「連合王国」という名称を使っていたが、 日本では一般には定着しなかったと言われている。連合王国UK "The United Kingdom"は、イングランド地域を含み、 スコットランド地域、 ウェールズ地域、 北アイルランド 地域の四つの非独立国の集まりである。

イングランドとスコットランドとは互いに意識し合っていると言われているが、これは民族的な背景がある。 イングランド地域はゲルマン民族系のアングロ・サクソン人が多く、他方スコットランドやウェールズやアイルランドはケルト人が多く 居住している。更に、旧植民地出身のインド系、アフリカ系、アラブ系や華僑なども加わり、実はUKは多民族国家となっている。


2.今も生きる旧宗主国としてのネットワーク

UKのしたたかさ(タフさ)は旧植民地の人脈ネットワーク基盤から生まれてきていると考えている。 この基盤を構築した原動力がUKの気質である。それは長期ビジョンを立て地道に実行していく気質である。

植民地化は大航海時代に推進され、当時将来を見通した国家レベルのビジョンを打ち立てこれがイギリス帝国(最近大英帝国と呼ばない) の構築を加速させることになる。その表れの一つが1714年に英国議会が制定した「経度法」である。英国-西インド諸島間の航海で経度誤差が 1度以内の測定方法を発見したものに懸賞金が与えられる法律である。この結果、1759年に海上の揺れにも充分耐え得る懐中時計 「クロノメータH4」(ジョン・ハリソン完成)が出現し、経度基点のグリニッジ天文台(本初子午線)からの高精度の経度測定を可能にし、 20世紀初めには世界の地上面積の5分の2、人口4億人から5億人を植民地化したと言われる。1700年代は植民地化の加速時期である。

この旧植民地の国々が人脈ネットワークを作っている。それがUKを中心としたコモンウェルス首脳会議(CHOGM)である。 CHOGMは1971年から2年ごとに旧植民地の国々(加盟国50カ国)が持ちまわりで開催し親睦を重ねている。カナダ、オーストラリア、 ニュージランド、アジアではインド・シンガポール・スリランカ・パキスタン・マレーシアが名を連ね、アフリカではガーナ・ケニア・ 南アフリカ・ウガンダが含まれ、国連顔負けの人脈ネットワークとなっている。更に、オリンピックと同じように、コモンウェルスゲームズ (Commonwealth Games)が4年ごとに開催され、2010年はインド・ニューデリーで開催予定である。


3.ウェッジウッドとダーウィンの縁

1700年代は、技術革新の第一次産業革命も起こり、石炭・蒸気機関を動力源とする軽工業が発展している。 UK最大の陶磁器メーカー「ウェッジウッド・カンパニー」はこの時期に創立されている。創設者のジョサイア・ウェッジウッドは 馬車による輸送での陶器の破損を避けるために製品輸送用の運河を敷地内まで引き込んだことは有名である。この運河を使って、 リバプールまで陶磁器を運び、植民地のアメリカ等に輸出している。また、奴隷解放のメダリオンを製作し、米国のベンジャミン フランクリンを支援し独立運動に寄与している。

ウェッジウッドの陶磁器の絵柄デザインには植物が多い。植民地化によって、世界各国から珍しい植物を収集し、 貴族の館の庭園で育てることが高級な趣味となっていた時代である。このような環境が、植物図鑑作成や植物学の発展に寄与し、 進化論(種の起源)で有名になったチャールズ・ダーウィンが輩出されたのである。実はダーウィンの母はジョサイア・ウェッジウッドの 長女スザンナである。

この植物愛好の庭はイングリッシュ・ガーデンへと発展していく。そしてジョサイアの長男ジョンらが王立園芸協会(RHS)を 創立するのである。現在もヨーロッパの貴族たちが会員に名を連ねており、全世界28万人の会員をもつ巨大なネットワークに成長している。 このネットワークも「ウェルス(wealth)」がキーワードになっている。


4.したたかさの基因は保全の文化

イングリッシュ・ガーデンは、一見無計画に見えるようだが実は計画的にケアしていることが特徴であると考えている。 UKの人達は、ケアをすることや保守メンテナンスをすることを重要視し、古いものを大切に使う文化である。この文化行動がUKのしたたかさ の基因である。スコットランドに単身留学した気骨な明治の人、竹鶴政孝氏やリタ夫人を偲びながら、10年以上熟成しないと製品にならない 竹鶴ブランドのモルトウィスキーを飲み、長期ビジョンの立案と計画性をもって先後(せんこう)を意識できる人間になりたいと想いに更けている。 人間の育成も技術の育成も10年以上熟成させないと本物にはならないからである。

(参考文献)
・フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
・ウェッジウッド物語,日経BP,2000年2月

(出典)http://www.mekikies.com/japanese/news/shitatakasa_s.pdf


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